2016年04月27日(水)発売アルバム『Retro Active』リコメンド
Emiko Bleuの2ndアルバム『Retro Active』は、不思議な懐かしさをたたえた作品だ。その懐かしさは、身に覚えのない記憶のようにフワフワとしていて、しかしリアルな質感を持っている。
その不思議の理由を探れば、プロデュースを担当した藤田千章(SING LIKE TALKING)が「非現代的」と形容するレコーディングの進め方がおそらくは鍵を握っているだろう。
このアルバムのトラックは、2013年にリリースした前作『BLUE』の楽曲をライブで演奏していくなかで自然と固まっていったバンドのメンバーによる、ライブとほぼ同じスタイルでの演奏をベースに構築されている。それは、単に1回の演奏を瞬間保存することで得られる生々しさを求めているのではなく、ライブを重ねるなかで交わされてきた音楽的なコミュニケーションの蓄積をあらためて楽曲の形に結晶化させようとするものだ。しかも、そのコミュニケーションは言うまでもなくEmiko Bleuの歌を中心に、もっと言えば彼女の歌のために交わされるものだから、そこに込められた彼女の歌への信頼と共感こそが生まれてくる音楽の重要なエッセンスとなることは容易に想像できるだろう。
言い換えれば、ここに収められた音楽は、スタジオのモニターに波形で表示されるデータの切り貼りではなく、何度もライブをともにした仲間たちがEmiko Bleuのために持ち寄った楽曲を、そのメンバーたちがお互いに刺激し合いながら演奏した、ひと連なりの音の“物語”とその場の空気までも取り込んだ記録だからこそ、確かな手触りや匂いを感じさせてくれるということだ。さらに言えば、“現在”が“過去”に目まぐるしく置き換えられていくスピードと同じ速さで色褪せていく“現代的”なポップ・ミュージックとはちょっと違う空気をこの作品が感じさせるのも、おそらくは藤田の言う「非現代的」なやり方の賜物だろう。
“遡及”を意味するアルバム・タイトルは、そうしたレコーディング手法からもうかがえる、ポップスの黄金時代へのリスペクトの表明であるのかもしれない。が、このアルバムを聴き通した後でその登場人物たちに思いを巡らせると、彼女たちの生き方を表現するキーワードであることに思い当たるだろう。このアルバムの中の女性たちは、過去を懐かしんで浸るのではなく、そこに未来への扉を見出し、そして出会うべき未来は耳馴染んだ古い歌のように心地よいと信じている。
過去は新しく、未来は懐かしい。
『Retro Active』。それは、現代を生きる大人の女性の、前向きな抒情をロマンティックに表現したボーカル・アルバムだ。
                           (兼田達矢)