2016年04月27日(水)発売アルバム『Retro Active』リコメンド
 1stアルバム「BLUE」から、じつに2年10ヶ月ぶりにリリースされる2ndアルバムは、日頃、ライブ活動を共にしている、ほぼ固定されたバンド・メンバーたち、キンモクセイの後藤秀人(G)、元ズータンズのリーダー、鈴木謙之(Pf)、元PHONESのドラマー、滝川岳、バークリー音楽院帰りのベーシスト、澤田将弘らを中心に、1年半という、1枚のアルバムのレコーディングとしてはかなり長い期間をかけ、コツコツと、まるで石を積み上げるようにして作り上げてきた作品だ。
 制作、編曲は前作「BLUE」と同じく、Sing Like Talkingの主要メンバーでもある藤田千章の手による。
 氏曰く、「いわゆるレコード用の制作、サウンドではなく、あくまで普段のライブ演奏を基本としたサウンドを目指した。いつものメンバーで、各楽曲それぞれにつき、リハーサルを幾日、幾度と重ね、ライブでも演奏してもらい、本人はもちろん、演奏陣にも楽曲を体に入れてもらった。そして生み出された渾身のテイクを選びベーシック・トラックを決めた。僕の作業はそれで半分くらいは終了。
 続いてEmikoという人格を歌詞に詰めてリード・トラックを録り、それから今回のもうひとつのキー、Emikoの歌声を聴く人たちにいかに印象深く、心地よくとどけられるかという命題を帯びた、かなり難易度の高いコーラス・ワークへの取組。本人にとっても挑戦だったでしょう。でも、これで90%は完成した。どのトラックも《生》感覚に溢れたというか、リアルな質感を持つものになった。
 そして最後にそれを邪魔しない範囲で必要最小限のダビング作業。各楽曲に花を飾り、色をつけて録音工程は終了。」
 なぜそういった制作方法を採ったのか。最近はライブといってもトラックやカラオケを流して踊ったり、歌ったりするか、弾き語りってパターンが圧倒的に多い。いつでもどこでもすぐ動けるし、資金的なメリットも大きいだろう。その代り、アーティストたちが実演の基本的な経験は得られずに育ってしまうというリスクがあるのも事実だろう。普通に生の演奏にのって生で歌うということに慣れていない。尤も、そのことが悪いとか駄目だとか、批判するつもりは全くない。寧ろ音楽業界の現状では当然だし仕方がないとも思う。しかしながら、そういった音楽やアーティストが溢れている今だからこそ、昔ながらの音場、いわゆる本物のライブ演奏、生バンド演奏の、実際にステージ上やスタジオ内で音が鳴ることによって音がぶつかったり調和したり共鳴したりして出来上がる音の現場、というものが新しくもあり、刺激的でもあるのではないか、と。音楽を演奏するというシンプルで、ベーシックなものが新鮮なのじゃないか、と。それはライブとレコードのパフォーマンスに極力、差異が生まれないように日々努力する、そんなアーティストを目指す彼女の心意気だ。「Retro Active」≒遡る。「基本に帰れ」とか「温故知新」とかいうだけではない強いメッセージが何か宿っているようなアルバムだとも思う。
 クラシックの声楽が音楽の入り口だったという彼女のヴォーカル・スタイルは現代風ではないけれど、それが寧ろ魅力だったりする。ファルセットの膨らみ、ちょっと上擦ったようなハイトーン、体の鳴りが感じられる伸びやかな中域。力強過ぎず押しつけがましくない歌唱法。言葉に即したような、まるで語りかけるかのような表現法。透明感、爽快感と艶っぽさの混濁。無機物と有機物の結合。そんなニュアンス。
 作曲は藤田千章はもちろん、バンド・メンバーの後藤秀人、鈴木謙之、かつてEmikoとバンドを組んでいた上杉倫彦といった気心知れた作家陣。彼女の歌声の長所をよく知っている人たちだ。更に本人も作曲に挑戦している。
 昭和を感じさせるブルージィでスウィンギーな曲、アルタナティブなロックを感じさせる曲、80年代が匂うAOR風、美しいバラード、SSW系、R&Bの要素、現代的なシティーポップ風など、バラエティに富んだ楽曲たち。ジャンルを問わない彼女の対応力がわかる。更に、大貫妙子さんのヒット曲をカバーした「突然の贈りもの」は彼女の歌声の魅力がよく分かる出色の仕上がりだ。
 作詞は、カバー楽曲「突然の贈りもの」とボーナストラック、岡野宏典作詞曲の「虹」以外は本人自身によるもの。Sing Like Talkingで作詞の殆どの部分を担っている藤田直伝の作品群。「歌は詞のためにある」を信条とする彼女の大きな魅力の一つだ。
 演奏陣は上記5名に加え、佐藤強一(Dr)、スティング宮本(B)、丹菊正和(Perc)、細野あきこ(Sax)、木幡光邦(Tp)、今野均(Vn)らの有名演奏家たち。まさに豪華絢爛、強力なサポートだ。また「リゲル」という新進気鋭のクラシック女性演奏家の3人組(フルート、ハープ、サックス)も参加。非常に楽しみなコラボが実現している。